以前の 記事では、 日本のエンゲージメント調査の結果にネガティブな影響を与えている可能性のある2つの文化的要因について触れました。今回は、低いエンゲージメントが日本の雇用システムに構造的に組み込まれている可能性について考えてみたいと思います。
キャリアのスタート時点での見えにくいミスマッチ
日本では、大学生は就職活動という非常に 構造化されたプロセス を経て、通常は大学3年の3月に開始し、10月には内定が正式に決まります。企業側・学生側の双方に善意があっても、この段階で既にエンゲージメント低下の種がまかれているのかもしれません。ある 調査では、新入社員400名以上 のうち約45%が「入社前と入社後のギャップ」を感じていることが明らかになっています。主な理由は、残業時間と研修・スキルアップ・キャリアアップ体制にギャップを感じたという回答が多かったです。それでも同じ調査によると、約60%の新入社員は会社に留まる意向を示しています。
佐藤恒亮氏の『 日本の「働く」を考える』にもあるように、多くの学生は限られた情報や表面的な印象だけでキャリアに関わる大きな意思決定を迫られます。現実とのギャップが見えてくると、幻滅や不信感が生まれてしまうのです。 アデコの調査 によれば、新卒が3年以内に離職する理由の第1位は「自身の希望と業務内容のミスマッチ」でした。
私自身も新卒研修のプログラムを運営する中で、エンゲージメントの低下を徐々に目にしてきました。2年目になると“ハネムーン期間”が終わり、1年目の評価が自分自身や上司の期待に届かなかったことで、将来に不安を感じるメンバーも出てきます。
結果として、理想と現実のギャップを感じながらも、最初に選んだ会社に留まり続ける新入社員が多く存在しています。そして、年次のエンゲージメント調査が実施されると、それは従業員の暗黙の不満のはけ口となる可能性があります。
自律性と感情を抑えるシステム
日本の職場では、エンゲージメントを下げる構造的な問題がいくつか見られます。その1つが病気休暇制度の不備と、それに関連した「申し訳なさ」から有給休暇を緊急用にため込む傾向です。 厚生労働省の「 平成29年就労概況」によると、病気休暇を制度として導入している企業は約30%にとどまり、 アメリカの約80%と比べてかなり低い水準です。
エクスペディアのグローバル調査 では、日本の有給休暇消化率は63%と、アメリカ・イギリス・フランス(いずれも90%以上)と比べて大きく下回っています。理由としては、「人手不足」、「緊急時に撮っておくため」、そして「忙しすぎて、休暇の計画を立ており、行く暇がなかったため」ことが挙げられます。
また、佐藤氏も指摘している通り、「同僚に迷惑をかけたくない」という罪悪感が大きな要因になっています。厚生労働省が開設している 年次有給休暇取得推進の特設サイト によると、約70%の従業員が「みんなに迷惑がかかると感じるから」と回答しています。
I’ve hoarded paid leave myself and ended up only using paid leave when it was about to expire. This is a common issue for Japanese companies. To comply with the 法律で年5日以上の有給休暇 の取得が義務づけられていたため、私たちは年末の最終週に期限が近い有給を消化するよう指示されていました。
有給の問題以外にも、佐藤氏はフィードバックの曖昧さや頻度の少なさ、職務内容の不明確さ、自律性の欠如など、エンゲージメントを下げる構造的課題を挙げています。社員が自分の強みや関心と仕事を結びつけにくいのが実情です。「エンゲージメントの重要性」はよく語られますが、それを支える制度設計や日々の行動変容にはあまり着手されていないのが現実かもしれません。
では、どうすればいいのか?
日本のエンゲージメントの低さは、構造的な要因によるところが大きいと感じています。特に新卒採用のあり方や、企業文化そのものに変化が求められます。キャリアのスタート地点から生まれるギャップを見直すことが、エンゲージメントの向上につながるのではないでしょうか。
企業側にできること:
- 新卒採用プロセスの一環として現役社員とのパネルディスカッションを実施する:新入社員が会社での実際の働き方について率直に質問できるような雰囲気をつくりましょう。彼らが聞きづらい、または思いつかないような「率直な質問リスト」をあらかじめ配布し、自分の言葉で聞く手助けをすることが効果的でしょう。
- ワークライフバランスを尊重する文化の醸成: 人事制度の整備だけでなく、管理職自身がその模範となることが大切です。
- キャリア開発の優先と可視化: サポート体制(上司・人事など)を明確にし、社員が自分自身でキャリアを管理・追跡できるツールや仕組みを提供しましょう。
- 仕事の意義を伝える: 新入社員が自分の仕事がチームや会社にどう貢献しているかを理解できるようにし、小さな成果にも承認を与えることが重要です。
- 休暇取得の再定義: リーダーが率先して有給を取得する文化をつくり、心身の健康や持続可能な働き方と関連づけましょう。病気休暇は通常の有給とは別に制度化することが望ましいです。
新入社員にできること:
- 自分のキャリア開発に主体的に取り組む: 利用可能なツールやリソースを把握し、サポートメンバーとの面談を活用して進捗を共有しましょう。
- 役割の明確化を求める: 自分の仕事がどのようにチームや会社に貢献しているのかを理解し、それに対してどんな意味を見出せるかを考えてみてください。
- 受け身にならず、好奇心を持ち続ける: 様々な経験に積極的に関わり、異なる部署を知ることで、キャリアの視野を広げていきましょう。
- エンゲージメントは「会社の責任」だけではなく、「双方向の取り組み」が必要です。企業が土台を用意し、個人がそれを活かしていくことで、より充実した仕事人生を築くことができるのではないでしょうか。
あなたはどう思いますか?エンゲージメント低下の連鎖を断ち切るために、どんなアイデアがあるでしょうか?

